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291)バブル時に迫る銀行の不動産業への新規貸出額

 都心の土地価格が何故急騰しているのか。
 日本銀行の長く続いた金融超緩和政策で、「いつか来た道を歩んでいる」と私は述べた。

 では、本当にそうなのか。その裏付けがあるのかという質問は当然あると思われる。

 日銀が発表している国内銀行の不動産業設備投資新規貸出額を調べてみた。

 国内銀行の設備投資新規貸出の総貸出額と、その内訳の産業別の数値として、製造業と不動産業への新規貸出額を調べてみた。

 その貸出額の推移は下記一覧表である。

 バブル経済といわれるのは、昭和62年〜平成2年(1987年〜1990年)である。
 その時の不動産業への新規貸出額と総貸出額に占める割合は、次の通りである。千億円未満切り捨て。

   1987年(昭和62年)           7.6兆円     17.9%
   1988年(昭和63年)           8.1兆円     18.6%
   1989年(平成元年)          10.4兆円     18.3%
   1990年(平成2年)            9.3兆円     16.4%

 昭和57年(1982年)の不動産業への新規貸出額は、1.5兆円でしかなかった。総貸出額に占める割合も8.7%でしかない。

 それが昭和63年(1988年)になると、5.4倍の8.1兆円の金が不動産業に流れ、翌年の平成元年(1989年)には2.3兆円増加されて、10.4兆円になるのである。
 これが、土地価格高騰が引き起こした平成バブル経済の原因となった金融の超過剰流動性の具体的な数値である。銀行をつぶし、証券会社をつぶし、多くの大中小の企業をつぶし、その後15年間に及ぶ平成のデフレ大不況を作り出した元凶の証拠の数値である。

 直近のデータである平成17年(2005年)の不動産業への新規貸出額は、9.3兆円である。この金額はバブル経済時の昭和63年の貸出金額を越え、ピークの平成元年の10.4兆円に迫ろうとする金額である。

 総貸出額に占める不動産業への新規貸出額の割合は、21.1%であり、これはバブル経済のピーク時の割合を超えている。

 昭和60年までは製造業への貸出額が、不動産業の貸出額を上回っていた。

 それが、昭和61年に逆転し、製造業への貸出額よりも不動産業の貸出額が上回ってきた。
 バブル経済崩壊後、製造業への貸出額は減る一方であるにもかかわらず、不動産業の貸出額は平成4年に6.7兆円まで下がったが、それ以後は傾向的に増加にある。

 不動産業への貸出額割合は、平成13年には、バブル経済時の最高割合である18.6%を超え、19.1%になってしまった。下がり続けていた渋谷の商業地の地価が底を打つのは平成14年(2002年)である。それ以後上昇に転じる。ゼロ金利政策と超金融緩和政策が、低迷する不動産の土地価格に、いよいよ影響し始めて来たのである。

 平成17年では、製造業への貸出額はわずかに2.1兆円で、総貸出額に占める割合は4.8%であるのに比し、不動産業の貸出額は9.3兆円で、割合は21.1%である。製造業の4.4倍の金が、不動産業に流れているのである。

 銀行の新規貸出額の20%を越える金額が、不動産業に流れている経済・金融状況は、異常と言うべきでは無かろうか。

 そして現在の不動産業の貸出額が、かってのバブル経済時のピークの金額に迫り、下手すると、それを上回ることになるかもしれない状況を知れば、「日本は不動産業国家なのか」という批判も出よう。

 現在の都心を中心にした土地価格の異常上昇を、「いつか来た道」と私が指摘し、警鐘を鳴らしている理由は、これで少しは分かったのでは無かろうか。
 土地価格の急激な異常上昇は良くない。ゆっくりした穏やかな上昇であって欲しい。

 下記に、上記で説明した日本銀行が発表している国内銀行の新規設備投資総貸出額及び製造業・不動産業設備投資新規貸出額のデータを示す。割合は私の計算によるものである。金額の単位は億円。
  
  総貸出額 製造業 不動産業 製造業割合 不動産業割合
1978 昭和53 147514 24401 11293 0.165 0.077
1979 昭和54 165786 27515 12354 0.166 0.075
1980 昭和55 157122 32174 10403 0.205 0.066
1981 昭和56 176726 37236 13712 0.211 0.078
1982 昭和57 181451 33887 15837 0.187 0.087
1983 昭和58 188184 31988 18876 0.17 0.1
1984 昭和59 209778 33125 24870 0.158 0.119
1985 昭和60 252614 39129 35091 0.155 0.139
1986 昭和61 302316 37538 48843 0.124 0.162
1987 昭和62 428904 46014 76770 0.107 0.179
1988 昭和63 436590 45095 81271 0.103 0.186
1989 平成1 571904 58062 104419 0.102 0.183
1990 平成2 570564 60326 93840 0.106 0.164
1991 平成3 521730 64879 70774 0.124 0.136
1992 平成4 490583 60579 67180 0.123 0.137
1993 平成5 461673 49874 67152 0.108 0.145
1994 平成6 462029 43260 68813 0.094 0.149
1995 平成7 523964 41920 77110 0.08 0.147
1996 平成8 502280 41781 73448 0.083 0.146
1997 平成9 488257 41506 73995 0.085 0.152
1998 平成10 466354 45358 80178 0.097 0.172
1999 平成11 425689 34085 69958 0.08 0.164
2000 平成12 431777 31296 79064 0.072 0.183
2001 平成13 450316 31969 86183 0.071 0.191
2002 平成14 435869 29105 80647 0.067 0.185
2003 平成15 418798 22174 68132 0.053 0.163
2004 平成16 407634 22012 77841 0.054 0.191
2005 平成17 446204 21388 93978 0.048 0.211


 不動産貸出額と地価の関係について述べた記事は、下記の鑑定コラムにも有ります。

  鑑定コラム407)「2007年不動産業への国内銀行新規貸出額10兆円」

  鑑定コラム316)「不動産ファンドへの貸出規制」

  鑑定コラム352)「地価摩擦係数」

  鑑定コラム388)「日本は不動産業国家ではない」

  鑑定コラム462)「経済自律則か、「10兆円」という金額」

  鑑定コラム515)「2008年の不動産業新規貸出額8.4兆円」

  鑑定コラム871) 「新規融資割合21.7%、銀行よ! 不動産業以外に融資先を見つけよ」

  鑑定コラム1049) 「不動産業への新規融資8.2兆円 要注意だ」

  鑑定コラム1082)「不動産業新規融資前年同期比16.1%アップ(2013年1〜3月)」

  鑑定コラム1114)「25年6月直近年間不動産業新規融資額8.8兆円」

  鑑定コラム1141)「リートバブルだ」

  鑑定コラム1172)「リートバブルに向かって 9.5兆円の貸出」

  鑑定コラム1205)「 不動産業新規貸出9.7兆円(2014年4月直前1年間)」

  鑑定コラム1235)「不動産新規融資10兆円を前に足踏み状態」

  鑑定コラム1279)「10兆円を越えなくてよかった」

  鑑定コラム1722)「平成バブル不動産貸出額は10兆円を越えていなかった」

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