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2180)全員同意型再開発の同意は財産処分の行為である

1.個人施行者、地権者1人の再開発事業は全員同意型の再開発となる

 全員同意型再開発事業とは、施行区域内に土地や建物に権利を有する者の全員が同意した場合に、種々の規制を緩和し、権利変換計画の内容を柔軟に定めることができるとする権利変換の方法の再開発事業である。都市再開発法(以下「法」と呼ぶ)の第110条の規定による再開発事業である。

 個人施行の再開発事業は、施行地域内に土地建物の権利を持つ個人の何人かが集まって再開発事業を行う事業であるが、その権利を持つ個人全員が事業内容に同意して事業を行う場合、その再開発事業を個人施行者の全員同意型再開発事業という。

 そもそも再開発事業内容に反対の人は再開発事業に参加しない。それ故参加する人は同事業に同意する人に限られることから、当然全員同意型になる。

 施行者は個人施行で、地権者が一人の場合も個人施行者の全員同意型再開発事業になる。

 晴海選手村再開発事業は、施行者は個人の東京都であり、地権者は東京都のみであるから、個人施行者の全員同意型再開発事業になる。

 地方公共団体の東京都が「個人」と云うのもおかしなものであるが、敢えて「個人」として施行するのには、何かの目的があることは充分予測される。

 その目的は、何かは分からないが、「個人」とすることによって、作為的に何か良からぬ利益を得ようとしているのではなかろうかと思われる。

 その全員同意型再開発の規定である法110条とはどういう規定か、下記に記す。

2.都市再開発法110条

(施行地区内の権利者等の全ての同意を得た場合の特則)

 第110条 施行者は、権利変換期日に生ずべき権利の変動その他権利変換の内容につき、施行地区内の土地又は物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者の全ての同意を得たときは、第73条第2項から第4項まで、第75条から第77条まで、第77条の2第3項から第5項まで、第78条、第80条、第81条、第109条の2第2項後段、前条第2項後段及び第118条の32第1項の規定によらないで、権利変換計画を定めることができる。この場合においては、第83条、第99条の3第1項、第102条、第103条及び第108条第1項の規定は、適用しない。

 全員同意である事によって、適用を免れる法条項が多い。

3.110条で適用を免れる条項

@ 73条2項

(権利変換計画の内容)

 第73条 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。
 (省略)
2 宅地(指定宅地を除く。)について所有権又は借地権を有する者が当該宅地の上に建築物を有する場合において、当該宅地、借地権又は建築物について担保権等の登記に係る権利があるときは、これらの宅地、借地権又は建築物は、それぞれ別個の権利者に属するものとみなして権利変換計画を定めなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

 (一〜二号省略)
 (3〜4項省略)

  A 75条

 第75条 権利変換計画は、一個の施設建築物の敷地は一筆の土地となるものとして定めなければならない。

2 権利変換計画は、施設建築敷地には施設建築物の所有を目的とする地上権が設定されるものとして定めなければならない。

 (3項省略)

B 76条

 第76条 権利変換計画においては、施行地区内に宅地(指定宅地を除く。)を有する者に対しては、施設建築敷地の所有権が与えられるように定めなければならない。

 2〜4(省略)

 *上記法76条は何を云っているかと云えば、再開発施行地区内で宅地を有するもの(これは土地所有権を持っていること)は、再開発後も建物の敷地の所有権が与えられる(敷地の所有権とは土地の所有権である)ことを云う。

 つまり土地所有権者は再開発後も土地所有権を持つということである。

C 77条2項〜5項

(施設建築物の一部等)

 第七十七条 権利変換計画においては、第七十一条第一項の申出をした者を除き、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について借地権を有する者及び施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。

2 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。
 
 (2項〜5項省略)

3 宅地(指定宅地を除く。)の所有者である者に対しては、その者に与えられる施設建築敷地に第八十八条第一項の規定により地上権が設定されることによる損失の補償として施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。

 (4項〜7項省略)

 *この条項で注意すべきは、「相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。」という規定である。

D 77条の2第3項〜第5項

(個別利用区内の宅地等)

 第七十七条の二 権利変換計画においては、指定宅地の所有者又はその使用収益権を有する者に対しては、それぞれ個別利用区内の宅地又はその使用収益権が与えられるように定めなければならない。

2 個別利用区内の各宅地の地積は、第七十条の二第二項第三号に規定する面積以上でなければならない。

3 指定宅地の所有者に対して与えられる個別利用区内の宅地は、それらの者が所有する指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。

4 権利変換計画においては、第一項の規定により与えられるように定められる宅地以外の個別利用区内の宅地は、施行者に帰属するように定めなければならない。

5 指定宅地の使用収益権を有する者に対して与えられる個別利用区内の宅地の使用収益権は、従前の使用収益権の目的である指定宅地の所有者に対して与えられることとなる個別利用区内の宅地の上に存するものとして定めなければならない。

E 78条

(担保権等の登記に係る権利)

 第78条 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき所有される建築物について担保権等の登記に係る権利が存するときは、権利変換計画においては、当該担保権等の登記に係る権利は、その権利の目的たる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられるものとして定められた施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に存するものとして定めなければならない。この場合において、借地権の設定に係る仮登記上の権利は、当該借地権に対応して与えられる権利につき、当該仮登記に基づく本登記がされるための条件が成就することを停止条件とする当該対応して与えられる権利の移転請求権として定めなければならない。

 (2項〜3項省略)

F 80条

(宅地等の価額の算定基準)

 第80条 第73条第1項第3号、第8号、第18号又は第19号の価額は、第71条第1項又は第4項(同条第5項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による30日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。

2 第76条第3項の割合の基準となる宅地の価額は、当該宅地に関する所有権以外の権利が存しないものとして、前項の規定を適用して算定した相当の価額とする。

 この条項で注意すべきは、宅地の価額の算定基準は近傍類似の土地の取引価格を考慮して定める相当の金額という規定である。

G 81条

(施設建築敷地及び個別利用区内の宅地等の価額等の概算額の算定基準)

 第81条 権利変換計画においては、第73条第1項第4号、第9号、第16号又は第17号の概算額は、政令で定めるところにより、第一種市街地再開発事業に要する費用及び前条第1項に規定する30日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として定めなければならない。

H 109条の2後段

(施設建築敷地内の道路に関する特例)

 第109条の2 都市計画法第12条の4第1項第1号に掲げる地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち同法第12条の11の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。)内における第一種市街地再開発事業その他政令で定める第一種市街地再開発事業については、事業計画において、施設建築敷地の上の空間又は地下に道路を設置し、又は道路が存するように定めることができる。

I 118条の32第1項

 第118条の32 前条の規定により第一種市街地再開発事業が施行される場合においては、権利変換計画において、一個の施設建築物に係る特定仮換地以外の施設建築敷地及び施設建築敷地となるべき特定仮換地に対応する従前の宅地に関する所有権及び地上権の共有持分の割合が、当該宅地ごとにそれぞれ等しくなるよう定めなければならない。この場合においては、第75条第1項の規定は、適用しない。

 上記規定によらないで、権利変換計画を定めることができる。

4.全員同意型の再開発の土地所有権

@ 前記法76条は、再開発法の基本的土地所有権の扱いである。

 しかし、全員同意型の場合、法110条によって法76条の適用が無くなる。

 つまり全員同意型の権利変換は、法76条の適用がなされないことから、土地所有権の権利変換は土地所有権で無くとも建物の所有権でも良いということになる。

A 前記77条は、権利変換は「相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない」と規定するが、全員同意型の権利変換では法77条の適用が無いことから、相互の不均衡がでても良く、かつ従前の価格と従後の価格との間に著しい差額が出ても良いということになる。

B 前記法80条は権利変換の宅地の価格について近傍類似の取引価格を考慮した価格で決めると規定するが、全員同意型の権利変換ではこの規定が適用され無く、同意があればどの様な価格でもよいと云うことになる。

5.全員同意型の同意とは財産の処分行為を意味する

 全員同意型の個人施行の再開発事業は、土地所有権が等価の土地所有権で無く、建物の所有権でも良いという類のものであり、それは土地という財産の処分行為を行うことになる。

 「同意」が無ければ、それ等行為が行えないことから、「同意」すると云うことは、それ等行為を行うということになる。

6.地方自治法237条2項

 地方自治法237条2項は、「普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない」と規定する。

7.同意は財産処分であるから都議会の承認が必要である

 晴海選手村再開発事業は、施行者は個人の東京都であり、地権者は東京都のみであるから、個人施行者の全員同意型再開発事業である。

 全員同意型再開発事業に同意することは、前記したごとく参加者の東京都の晴海選手村土地財産の処分になる。

 都有地の土地という財産を処分する場合には、地方自治法237条2項が適用される。即ち都議会の承認又は適正な価格で無ければならない。

 上記より、晴海選手村事業をするには、同意の前に都議会の承認が必要である。

 都議会の承認がなければ晴海選手村事業は行ってはいけないのである。

 そうであるにもかかわらず、都知事は、議会の承認を得ずに、勝手に独断で晴海選手村の再開発事業に同意し、事業を進めてしまった。

 議会の承認がなくとも適正な価格の処分であり、違法性は無いという反論がなされるであろうが、その処分価格は適正な価格とは認められない価格である。「処分価格は適正な価格ではない」と云うことは、鑑定コラム2144)以降の20編近いコラム記事で立証されている。それ故「適正な価格の処分であり、違法性は無い」と云う反論主張は通らない。

 つまり晴海選手村事業は、事業開始の手続に瑕疵がある。最初の事業開始の手続に瑕疵がある事から、その後の手続及び行為が適正であったとしても、晴海選手村事業は法的に適正であるということには成らない。

8 晴海選手村事業は違法

 全員同意型の再開発事業は、参加者の同意と云う行為は土地という財産の処分ということになる。

 それ故、都知事は、晴海選手村事業を始める前に、都議会に都有地処分の承認を得て、事業に同意しなければならなかった。都知事は、何故、都議会に承認を求めることをしなかったのか。

 都知事は都議会の承認を得る手続を怠った。即ち事業開始の手続に瑕疵があった。

 それを怠ったことから、晴海選手村事業は違法な再開発事業である。

 このことから晴海選手村の再開発事業そのものは初めから違法ということになる。

9.地方自治法237条2項が骨抜きになる

 東京都の晴海選手村再開発事業のやり方を、各地方自治体が真似して全員同意型の個人施行再開発事業を行いだしたら、地方自治法237条2項は骨抜きになり、地方自治体のやりたい放題で、地方自治体所有地が、適正価格から著しく低額な価格で処分する事がおおっぴらに行われる事になる。

 何の為に議会があるのか問われる事になろう。何の為に地方自治法237条2項があるのかと云うことになろう。

 約1610億円する土地が約129億円で取得出来、再開発事業が出来るのであるとすれば、ディベロッパーや再開発事業業者はウハウハである。



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