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不動産鑑定士の西田紘一氏が、東京晴海オリンピック選手村土地の東京都売却価格について、私の鑑定コラムに寄稿して下さった。
不動産鑑定士の西田紘一氏との付き合いは古い。
不動産鑑定評価基準の賃料の必要諸経費の中に、空室損失を入れるのは間違いであると私は主張していた。裁判で、多くの不動産鑑定士から、私の考えは間違いであり、鑑定基準違反であると意見書で批判され、相手側代理人弁護士から準備書面で批判され、かつ法廷の証人台において叩かれた。
その中で、西田紘一氏は、唯一、「田原の考えは正しい」と支持し、不動産鑑定の実務理論雑誌の『Evaluation』30号(プログレス 2008年8月15日発行)掲載の論文「判決を歪める不適切な鑑定」P65で、「空室損失は費用では無い」と次のごとく述べられた。
「空室損に費用性はない。総収入の修正項目である。費用とは収益獲得のための犠牲である。空室を増大させることによって収益が増加する関係にはないので、費用性は否定されている。空室損を費用にしているのは、不動産鑑定士(と地価公示)だけであろう。」(注 国土交通省は、平成22年から地価公示は空室損失を必要経費項目から総収入の修正項目に移した)
このことについては、鑑定コラム579)「空室損失は経費ではない」で記している。
「地代は家賃より求めるべし」と判決し、かつ、継続賃料の求め方の4手法を全否定して、不動産鑑定業界に激震を走らせた浅生重機裁判官の東京高裁の横浜地代判決がある。その判決を導き出した弁護士は横浜の塩田省吾弁護士である。
知り合いの不動産鑑定士が、
「田原さん、会わせたい人がいる。
どうしても田原さんに会って御礼を言いたいと言う人がいる。その人が一席設けたいと言っている。会ってくれるか。」
と言う誘いを掛けて下さった。
その誘いに乗り、知り合いの不動産鑑定士に紹介されて、レストランで会ったのが、塩田弁護士である。塩田弁護士とは、初めてお会いした。
塩田弁護士がボロボロに使い古した一冊の書物を取り出して、
「この本で、賃料評価について多くを学ぶことが出来ました。田原さん、有り難うございました。」
と頭を下げられた。
私は面食らった。
塩田弁護士が手にされていた本は、私の著書であった。
浅生横浜地代判決を引き出した凄腕の弁護士から感謝の言葉を受けて、私は恐縮してしまった。
塩田弁護士に私を引き合わせてくださった知り合いの不動産鑑定士とは、西田紘一氏であった。
このことについては、鑑定コラム1889)「浅生横浜地代判決(東京高裁 平成14年10月22日)」で記している。
私が尊敬している不動産鑑定士の一人である西田紘一氏の「晴海選手村土地の売却顛末」という題の寄稿文を下記に転載する。
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「晴海選手村土地の売却顛末」 西田紘一
1、東京都は13.39万uの土地を11社企業共同体にただ同然の129.6億円(96,800円/u)で売却した。
売却の条件は11社が東京都の構想に沿って建てる選手村を、五輪期間中は五輪組織委員会に賃貸しその後は分譲マンション等に転用することである。
東京都の出費は提供した土地13.39万u。時価1611億円(1,200,000円/u)である。これに対し東京都の収益は0円。11社企業共同体から選手村を賃借するが家賃を払う。
2、実質土地売価は契約額の半分以下である。
契約時から約8年以上支払を猶予するからである。
土地売価を東京都が受け取るのは11社企業共同体が選手村を建築し、五輪組織委員会に賃貸し、分譲マンション等に改修し終えた事業完了公告時であり契約から約8年後になる(見込みであった)。五輪開催が流動的なので東京都が土地代を受け取るのはそのまた先のいつかになる。
A鑑定会社が作成した129.6億円の評価額を根拠にして東京都は契約したのであるから、その評価額算出の根拠とされた利率(投下資本収益率)を用いて計算すると契約から約8年後の入金額の現在価値は76億円である。開催が既に1年延びたので約9年後の入金額の現在価値は63億円である。
さらに延びるに応じて契約時の現在価値は減じる。
(以上は土地価格の10%を契約保証金として契約時に入金済を織り込んだ計算値である)
129.6億円は全額を契約時に支払う場合の金額であるとA社評価書に明記されている。
それなのに、東京都は129.6億円を約8年後の完了公告時において収受する金額であると記載して契約した。後払いに伴う支払増額条項が契約書に記載されていない。
後払い金利を免除することで41%引き(76/129.6=58.6%)の実質76億円で契約した。固定資産税は約8年後の完了公告時まで課されない。
契約時には想定外だった五輪延期や中止か不透明であるので更なる実質減額が避けられない。
最も早い2021年開催なら土地の実質売価は63億円になる。(63/129.6=48.6%)
3、分譲マンションに転用する選手村建物を企画したのは誰の為か。
1611億円の都有地を63億円以下、即ち25分の1以下(63/1611=1/25)で放棄した跡に記念遺産は何も晴海に残らない。
ひと夏のオリンピックが終わると1611億円の土地が都民の知らない間に消えていたとなる。
それなら簡易構造の選手村建物にして五輪後に解体すべきであった。高価格、非効率の五輪仕様に制約されない分譲マンション仕様建物を不動産市況に応じて数年かけて販売し、大量一括販売に伴う市場性減価も避けられる。
簡易構造選手村建物の建築費と解体費を要するが、消えた1611億円に比べ極めて僅少額である。
これによりオリンピック、パラリンピック後も13.39万uの更地が都有財産であり続け、新たな都市発展の貴重な拠点に活用できる。
消えた土地の価格を東京都は認識できていないので、一体いくらの土地が消えたのか都民への説明責任を今も果たせていない。
失った1611億円は在日米軍駐留経費負担(思いやり予算2020年度1993億円)の80%に相当する巨額である。
4、失当な評価
東京都は晴海の土地13.39万uを鑑定評価していない。
A社発行の評価書は大規模一括開発という必ずしも経済合理性に則さない分譲マンション群企画の目論見書である。土地価格の評価ではない。
経済合理性とは無縁な選手村が計画されたからと言って、ある日突然に土地価格が1/12に暴落することはあり得ない。
経済合理性に基づいて行動する経済人は選手村などを建てず、晴海の地域性に適合した最有効使用の実現を一定の年数をかけて目指す。その市場価値が鑑定評価額である。
東京都が選手村要因と称しているものは、期間に制約がある五輪という特殊な企画を達成のための費用計算であり、土地価格形成要因と無関係であることは言うまでもない。
土地価格1611億円と、選手村企画達成のための費用を対比させ、すなわち収支を対比させた「見える化」により五輪費用がはじめて顕在化される。
だが東京都は晴海の土地を鑑定評価していないので失う土地の価格が今もわからないまま、当然に選手村の費用がわからないままである。
収支のいずれも認識できていない暗中模索のうちに広大で貴重な晴海の土地を失った。ずさん極まる選手村計画である。
この杜撰な選手村計画に加担したA鑑定会社も糾弾を免れない。
低額評価をひたすら意図して市場と乖離した数値を処々に用いていると、その数値、手法について批判が不動産鑑定士界で論じられている。
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