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1.はじめに
私は2001年に清文社と云う出版社から『賃料<家賃>評価の実際』と云う書物を出した。
そのP219で「建物面積と価格」の標題でマンションと事務所の建築面積の規模大と単価の関係を記した。以下にその個所を部分的に転載する。下記2,3,4章の部分である。但し平均値、標準偏差、変動係数は、今回加えた。
2.規模大と価格減
商品の取引においては、取引数量が多くなると総額も大きくなるため減額サービスが行われることが多い。大量の商品の仕入によって仕入れ価格を抑え、小口売りは定価に近い価格で販売することによって利益を増やす。このやり方は商いの常識である。
この大量仕入れと価格減の関係は、建物建築の場合にも適用されている。
建物を建てる場合、建物の規模が大きくなるにつれて建築費の総額もふくらむことになるが、u当り単価でみると単価は安くなっている。
この現象は建物全てに適用されるとは言い難いが、ほぼ適用出来る。
3.建築工事原価分析情報データ
大成出版社という出版社が『建築工事原価分析情報』(建設工業経営研究会 編著 1999年4月)という書物を出している。
建築物の原価が調査・分析されて発表されている。建築データの協力会社は鹿島、竹中工務店、大林組、清水建設等総合建設会社30社、設備専門会社10社である。
そのP64に面積と単価の分析が行われている。抜粋する。
(データ)
|
|
|
|
(千円/u)
|
|
集合住宅
|
集合住宅
|
事務所
|
事務所
|
面積 u
|
SRC
|
RC
|
SRC
|
RC
|
1000未満
|
280.6
|
248.8
|
460.8
|
303.9
|
1000〜2999
|
241.6
|
213.9
|
299.2
|
251.7
|
3000〜4999
|
209.5
|
199.7
|
332.5
|
231.6
|
5000〜9999
|
189.9
|
181.5
|
314.0
|
227.6
|
10000〜29999
|
187.7
|
187.5
|
291.7
|
289
|
平均
|
221.9
|
206.3
|
339.6
|
260.8
|
標準偏差
|
35.2
|
24.0
|
62.2
|
30.6
|
変動係数
|
0.159
|
0.116
|
0.183
|
0.117
|
4.面積による価格比
1000u未満の工事費の評点を100として、各面積区分の工事費を評点化すると次のごとくである。
(評点)
|
|
|
|
|
|
集合住宅
|
集合住宅
|
事務所
|
事務所
|
面積 u
|
SRC
|
RC
|
SRC
|
RC
|
1000未満
|
100
|
100
|
100.0
|
100
|
1000〜2999
|
86
|
86
|
65.0
|
83
|
3000〜4999
|
75
|
80
|
72.0
|
76
|
5000〜9999
|
68
|
73
|
68.0
|
75
|
10000〜29999
|
67
|
75
|
63.0
|
95
|
平均
|
79.2
|
82.8
|
73.6
|
85.8
|
標準偏差
|
12.4
|
9.7
|
13.5
|
10.1
|
変動係数
|
0.157
|
0.117
|
0.183
|
0.118
|
5.平成28年の東京RC造住居専用住宅の建設統計
国土交通省が発表している『建築着工統計調査』によると、平成28年(2016年)の東京のRC造住居専用住宅の建築統計は、下記である。
建築物の数 2090棟
床面積の合計 3,208,451u
工事費予定額 94,513,914万円
これよりu当り建築工事費は、
94,513,914万円
─────────= 29.46万円/u
3,208,451u
である。これに設計監理費を5%とすると、
29.46万円×1.05≒30.93万円/u
である。
1棟当りの面積は、
3,208,451u
─────────= 1535u
2090棟
である。
6.標準偏差の推定
平成28年東京RC造の住居専用住宅の平均建築費は、29.46万円/uと求められた。
この平均建築費の標準偏差を次のごとく推定する。
平均、標準偏差、変動係数の間には、下記の関係がある。
標準偏差
─────── = 変動係数
平均値
変動係数は、前記の著書の個所で0.116と求められている。平均値は29.46万円である。
標準偏差をXとする。下記の算式が成り立つ。
X
─────── = 0.116
29.46
この算式を解けば、標準偏差は、
X=29.46×0.116
= 3.42
3.42と推定される。
7.RC造14454.66uのマンションの建築費(平成28年時)
RC造14454.66uの東京のマンションの建築費を求める。
国交省の『建築着工統計調査』によると、東京のRC造の居住専用住宅の建築費はu当り29.46万円である。これに設計監理費5%を加算するとu当り30.93万円である。
1棟の平均面積は1535uである。
前記の建築面積と価格の関係の評点を利用すれば、
1535uの評点 86
14454.66uの評点 75
である。
14454.66uの建築費の単価は、
75
30.93万円×───── = 26.97万円/u
86
である。
総額は、
26.97万円×14454.66u=389,842万円(38億9842万円)
である。
8.ある鑑定書の建物価格
東京のど真ん中区にある地域街区に建設予定の建物の建築工事費について、いきなり工事費数値の
B街区 u当り355,000円
C街区 u当り350,000円
D街区 u当り360,000円
と単価が記載される鑑定書に遭遇した。
その35.5万円とか36万円の単価は、どの様にして求められたのかの合理的根拠の説明は無い。
建設会社の見積書によったとか、類似建物の実際の工事費を提示して決めたとか、国交省の建設統計データを示して決めたとか、根拠の証拠提示が必要ではかなろうか。
タワー棟(50階)の建築単価は402,000円/uと価格数値のみ記載されても、その根拠の説明も無いことから、何故?の疑問のみ残る。
未着工ではあるが、18棟の建物の価格を鑑定評価するわけであり、開発法でその建物建築工事費を控除して土地価格を求めるのであるから、非常に大切な価格となる。その建築工事費の見積書等の証拠となるものも無く鑑定評価するとは驚く。不確かな噂で建物建築費を決定しているようである。
14454.66uの分譲マンションはB地区にあることから、鑑定の建物価格は、
355,000円× 14454.66u≒5,131,400,000円(51億3140万円)
である。
9.まやかしの建築工事費
上記によって同じRC造の面積の同じ用途の建物建築費で、2つの価格が求められた。
イ、国交省の建設統計の平均工事費から 38億9842万円
ロ、鑑定書工事費 51億3140万円
両工事費に12億3298万円の差が出た。
開差率を求めると、
51.3140
───────≒ 1.32
38.9842
32%という大きな割合である。
何故この様な大きな価格差が生じたか。
それは建物の建築工事費は、延床面積が大きくなると単価は安くなるという事を考えずに、当該鑑定書は工事費を求めているからである。
建物価格の総額を意識的に高くするやり方である。かなりずる賢いやり方である。
これに対して「規模大の14454.66uの要因を考えた35.5万円/uであり、適正な建築工事費である」という反論が当然なされるであろうが、そうすると1000〜2999uの建築単価は、
86
35.5万円×───── = 40.7万円/u
75
40.7万円/uとなる。
設計監理費5%を控除すると、
40.7万円÷1.05=38.76万円
38.76万円となる。
国交省発表の東京RC造住宅専用の平均工事費は29.46万円である。
標準偏差は、3.42と推定されている。
38.76万円の出現する確率を求める。
38.76−29.46
Z値 = ─────── = 2.7
3.42
Z値は2.7である。この出現率は0.0070(0.7% 正規分布表の右側半分の出現率の表示は0.035である。出現率は両側で考えるから、0.0035×2=0.0070となる。)である。出現率5%以下のデータは信頼性が無く使用不可である。0.7%の出現率であるからダメである。
前にも述べたが、世論調査、内閣の支持率等を新聞社が行っているが、それは全て出現率5%以上(Z値1.96以下ということ)を条件にして行われている。そうしないと発表する世論調査、内閣の支持率等に信頼性がなくなるからである。
それだけ出現率5%以上と云うことは大切である。
この事から、出現率0.7%と云う建築単価35.5万円は、信用出来ない価格の烙印が押される価格である。
どれ程高いかと云えば、それは12億3298万円と求められている。
u当りで換算すると、
1,232,980,000円÷14454.66u≒85,300円
85,300円である。
E街区はS造の店舗であるから除外する。
E街区を除く、A〜D街区にある17棟の全ての建物を同じごとく計算するのも、B街区の建築工事費の不自然な工事費という結果が出ていることから、他の街区の建築工事費も同じ様な不自然な操作をしているであろうと充分予測される事から、行っても仕方なかろう。
上記で求められた85,300円/uに、A〜Dの総延床面積を乗じて概算の建築工事費のかさ上げ額を求めることにする。
E街区を除く街区の延床面積の合計は下記である。
A街区 115,764.50u
B街区 107,599.73u
C街区 227,870.11u
D街区 211,199.98u
合計 662,434.32u
である。
85,300円×662,434.32u≒56,500,000円(565億円)
建物価格(建築工事費)が、およそ565億円程度かさ上げされていると云うことになる。
この様な建物の鑑定評価を行うべきものでは無い。
*****追記 2022年8月18日 建物面積の10uの見誤りによる面積変更によって建物価格が変更したため、数値の変更を行った。
*****追記 2023年11月12日 26.97万円×14454.66uの計算間違いが分かり、修正する。
嵩上げ単価86,300円/uを85,300円/uに修正し、嵩上げ総額を565億円に修正する。
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